ホロライブの配信を見始めると、掲示板やSNSで時折「ユニコーン」という不思議な言葉に出会います。
これは角の生えた幻獣ではなく、女性VTuberが男性と絡むことを極度に嫌う一部の男性ファンを指すネットスラングです。
アイドルに「男の影が見えるなんて許せない!」と理想の純潔を求めるその姿は、処女の前でだけおとなしくなる伝説の一角獣(ユニコーン)になぞらえられています。
要は“彼女には永遠に自分たちの夢を壊さないでいてほしい”と願うあまり、異性の匂いに敏感に反応してしまう人々なのです。
こうしたユニコーン系ファンは古くからアイドル文化にも存在し、俗に「処女厨」とも呼ばれてきました。
VTuber界隈ではこの概念がミーム化しており、配信者側が冗談めかして「ユニコーンおじさん見てる~?」とネタにする場面すらあります。
一方でファン同士の会話でも「あの子の配信にはユニコーンが多い」などとレッテル貼りに使われることがあり、少々シニカルな響きを帯びています。
ユニコーンたちは推しに強い独占欲と理想像を抱いており、現実の異性との接触はその幻想を壊す「禁忌」と映るのです。
FPSゲーム配信で浮き彫りになる摩擦
ホロライブではアイドル的な歌やトークだけでなく、Apex LegendsやVALORANTなどFPSゲーム配信も人気コンテンツとなっています。
しかしチーム戦のFPSは男女のコラボが避けられず、ユニコーン勢との相性は最悪です。
たとえばApexの大会に女性VTuberが参加すると聞いただけで、「なんで男と組むんだ」「そんな配信見たくない」とSNSやコメント欄で拒否反応を示すファンが現れます。
実際にコラボが始まれば、男性チームメイトへの誹謗や「裏切り者」呼ばわりが飛び交い、配信の空気が荒れてしまうことも少なくありません。
ホロライブでは過去に他社主催の大型FPSイベントへの参加を巡り議論が起きたこともありました。
人気メンバーの湊あくあさんはApex大会に向け猛練習する中で「邪魔だけはしないでほしい」と配信で胸の内を漏らしています。
おそらくは心無いアンチやユニコーン的ファンからの圧力を感じ取っての発言でしょう。
彼女は男性ストリーマーとの直接的なチームアップを避け、同事務所の女性メンバーだけで大会に挑みましたが、それでも精神的負担は大きかったようです。
「こんな状態じゃあくあも辞めたくなるわな」という声がネット掲示板に上がったほどで、FPSを巡るファンとの摩擦がVTuber活動に影を落とすケースもあるのです。
メンバーたちのユニコーン対応いろいろ
ホロライブメンバーそれぞれが、この厄介なファン層に向き合う術を模索してきました。
初期から男性コラボに積極的だった白上フブキさんは、有名なホロスターズ(男性VTuberグループ)との共演者です。
フブキさんは「友達のホロスタを切り捨てるつもりはない」と公言し、仮に反発するファンがいても自分の信念を曲げない姿勢を示してきました(いわば運営公認の“ユニコーン駆逐艦”です)。
事実、彼女はホロライブトップクラスの人気を保ったまま男性VTuberとも歌やゲーム配信を行い、「それでも推す」と言ってくれるファンだけを相手にしています。
夏色まつりさんもまた男性絡みOK派の代表格です。
まつりさんは以前から外部男性実況者とのコラボやゲーム大会に参加しており、「事務所から男性NGは出ていない。男女関係なく遊びたい」という趣旨の発言をしています。
彼女自身、「私のファンは男性Vと絡んでも喜んでくれるから大好き」と語ったこともあり、理解のあるファン層に支えられているようです。
その反面、アイドル的な売り方で人気を博すメンバーとはファン層が異なるためか、一部では「ホロライブらしくない」と揶揄されることもあります。
しかし持ち前の明るさとノリでアンチすら笑い飛ばすまつりさんは、ユニコーンとは最も縁遠い存在と言えるでしょう。
一方で潤羽るしあさんや雪花ラミィさんのように、積極的にガチ恋営業をしてユニコーン層を大いに取り込んだメンバーもいました。
彼女たちは配信で恋人さながらの甘い言葉を囁き、徹底して男性の影を感じさせない夢の世界を提供することで莫大なスパチャと愛を獲得しました。
もちろんリスクも伴い、るしあさんの件のように一度でもその幻想が崩れれば、「角が折れた」ユニコーンたちが掌を返して猛攻撃に転じる危うさがあります。
ラミィさんも男性絡みの些細な発言に即座に謝罪したエピソードがあり、ユニコーンを抱える苦労が垣間見えます。
「愛されるために清純であれ」というプレッシャーと隣り合わせの営業は、VTuberにとって諸刃の剣なのです。
また星街すいせいさんは少し異色で、「自分はアイドルではなくアーティスト」という立場を強調しガチ恋勢との距離を取っているメンバーです。
すいせいさんは恋愛めいた売り方をせず、男性歌手とのコラボや番組出演も行います。
「ファンに恋愛感情は求めていない、音楽を聴いてほしい」と断言する彼女にはユニコーンも寄り付きにくく、その分伸び伸びと活動の幅を広げています。
“推しは推せる時に推せ”の名言を残した彼女のスタンスは硬派でシニカルですが、結果的に安定した人気と精神的自由を両立している好例でしょう。
ホロライブ運営のスタンスと変化
では、肝心のホロライブ運営(カバー株式会社)はユニコーン問題にどう対処してきたのでしょうか。
実のところ公式に「男性NG」のルールは存在せず、コラボ相手の選択は各タレントに任されています。
ホロライブ初期には女性VTuberのみを揃え、現役アイドルさながらに“恋愛匂わせゼロ”で売り出した経緯があります。
そのため熱心なユニコーンやガチ恋勢が多数集まり、彼らの惜しみない課金とグッズ購入が事務所の躍進を支えた側面は否定できません。
運営も当初はファンの意向を無視できず、男性との絡みには慎重にならざるを得ない時期があったと言われています。
しかし、ホロライブが大きく成長した近年は状況が変わりつつあります。
タレントたちの活動の幅が広がり、以前より異性コラボ企画や男女混合のゲーム実況が増えてきました。
実際ここ1年ほどを見ても、ホロライブJPの約9割のメンバーが何らかの形で男性コラボを経験済みというデータもあります。
幸い配信現場が大荒れする事態はほとんど起きておらず、ファン側も徐々に受け入れつつあるようです。
運営としても新規ファン層の開拓に舵を切り始めたのか、多少の反発は織り込み済みで企画を進めているように見えます。
実例として2023年にはホロライブ6周年特番でホロスターズを交えた大型企画が配信されましたが、コメント欄には案の定ホロスタ露出への不満が噴出しました。
それでも番組自体は予定通り実施され、「嫌な客は去っても構わない」という覚悟すら感じられる対応でした。
実際、ネット上には「そんな客(ユニコーン)は企業側からお引取り願いたいってことだ。」という辛辣な意見もあります。
「企業も承知の上で男性の声を許容してるんだ。客層の幅を広げ始めたんだろうよ」との声が示すように、運営はもはや特定層に依存しない戦略を取りつつあるのかもしれません。
もっともホロライブは依然“アイドル事務所”的な色が濃く、ユニコーンファンの存在は大きなコミュニティ要素として残っています。
運営もファンも過渡期にある現在、どこまで夢を守りどこから現実路線に振るか、そのバランスが試されている段階と言えるでしょう。
ガチ恋とアイドル性:VTuber文化の光と影
ユニコーン問題を語るには、VTuber文化における「ガチ恋」と「アイドル性」について触れないわけにはいきません。
ガチ恋とはVTuberに本物の恋愛感情を抱いて入れ込むファンのことで、推しを“二次元の推し”ではなく“理想の彼女”として見てしまう層です。
VTuber側もファンとの疑似恋愛関係を演出する「ガチ恋営業」を駆使し、ハマったファンは高額スパチャやグッズ購入で惜しみなく愛を表現します。
ホロライブはまさにこの手法を磨き上げ、大成功したケースでしょう。
しかしガチ恋が高じて独占欲が暴走するとユニコーン化する危険があります。
もともとガチ恋自体は必ずしも悪い意味ではなく、「一番の推し」として応援する健気な想いとも言えます。
対してユニコーンは「推しに異性の影があってほしくない」という願望が前面に出ており、言動も攻撃的・排他的になりがちなため厄介なファンの代表格と見なされます。
言い換えれば、ガチ恋勢は推しへの愛ゆえに多少のことは許せても、ユニコーン勢は愛というより理想の偶像(アイドル像)を崇拝するあまり現実を許せないタイプなのです。
VTuberのアイドル性が高まるほどユニコーンも生まれやすいのは事実で、「アイドル売りの成功=ユニコーン量産」というジレンマがあります。
ホロライブが「清楚で彼氏いません!」というイメージ戦略で躍進した裏には、同時にそうしたファン層を大量発生させた功罪があるわけです。
運営・タレント側もそれを理解しており、敢えて清純キャラを演じ続ける者もいれば、逆に先手を打って「私は彼女じゃありません」と線引きする者もいました。
どちらを選ぶにせよリスクとリターンがあり、VTuberは常にファンとの距離感に頭を悩ませています。
文化的に見れば、ユニコーンファンの存在は日本のアイドル文化の延長線上に位置します。
リアルアイドルの世界でも“恋愛禁止”の建前があり、熱狂的ファンほど異性スキャンダルに敏感でした。
かつてアイドルに恋人発覚し激昂したファンが傷害事件を起こした例すらあり、「応援するあまり刃傷沙汰」は決してフィクションではありません。
VTuberだから安全という保証もなく、顔出しこそしていなくとも中の人は生身です。
ファンが理想を押し付けすぎれば、最悪の場合推しを傷つける結果になる――ユニコーン問題の本質はそこにあります。
もっとも、ユニコーンたちを一概に悪と断じてしまうのも早計でしょう。
彼らは夢を買うお客様でもあります。
あるコメントには「金を落とす客に夢を見せるのが商売なんだから、男を出すなんてサービスがなってない」との指摘もありました。
ホストクラブに黒服男性が隣に座ってきたら興醒めするのと同じで、VTuber配信も徹底したファンタジーの提供こそが礼儀という考え方です。
確かに、ユニコーン勢の多くは推しに大金を貢ぐトップオタク層でもあり、ビジネス的には彼らの存在が無視できない一面があります。
「客のモラルや性癖なんて二の次。ルールに従って夢を見せるべきだ」という主張には、耳が痛い現実も含まれているのです。
ではファンは夢を見る権利があり、VTuberは永遠に偶像であるべきなのでしょうか。
答えは簡単ではありません。
VTuberも一人の表現者であり、人間です。
いくら二次元の皮を被っていても、完全な偶像にはなりきれないし、なる必要もないでしょう。
理想と現実の狭間で悩み葛藤する姿も含めて推しの物語であり、ファンそれぞれが自分なりの距離感を見つけるしかありません。
ユニコーンでいるも自由、卒業するも自由。
その選択は最終的にファン自身に委ねられているのです。
おわりに:夢と現実のバランス感
ホロライブに最近ハマった皆さんに向けて、ユニコーンという特殊なファン層とFPSジャンルを巡る騒動を文化的視点からシニカルに解説してみました。
一角獣のごとく純潔を守ろうとするファンたちと、自由に羽ばたきたいVTuberたちとの攻防は、現代の偶像(アイドル)文化の縮図でもあります。
幸か不幸か、VTuberはファンとの距離が近く双方向のやり取りが可能なだけに、その摩擦もリアルタイムで表面化してしまいます。
ホロライブという船は多くの愛情と時に身勝手な欲望を乗せ、大海原を進んでいます。
舵を握る運営と演者たちがどんな航路を取るのか、そしてユニコーンたちが絶滅するのか共存していくのか――。
いずれにせよ、推しとファンの関係は生き物のように日々変化するものです。
幻のユニコーンもまたしかり。
夢見る乙女(と乙女を推す乙女心を持つファン)の物語はこれからも続いていくでしょう。
ホロライブという舞台で繰り広げられる愛憎劇、その行方をシニカルな笑いとともに見守っていきたいものですね。
管理人のつぶやき

管理人的にはユニコーンの生態と、ホロメンがユニコーン対応に苦慮してるのがおもろすぎ
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